日本人はなぜ幸せを感じにくい? 幸福度最下位の理由と幸せを高めるヒント

最近、「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。これは単に健康であるだけではなく、心の豊かさや人とのつながりを大切にしながら、自分らしく生きることを意味する概念です。企業でも「ウェルビーイング経営」という考え方が広がり、個人のライフスタイルにも影響を与えています。

しかし、日本社会全体を見たとき、「幸せ」を感じている人はどれくらいいるのでしょうか? 幸福度が高い人が多い社会は、より良い社会といえるかもしれません。
3月20日の「国際幸福デー」を前に、博報堂100年生活者研究所が6か国を対象にした幸福度調査の結果を発表しました。この調査では、日本を含む各国の人々が「幸せ」についてどう考えているのかが明らかになっています。特に注目すべきは、日本の幸福度が調査対象の6か国の中で最下位という結果になったこと。これは単なるデータではなく、私たちの価値観やライフスタイルとも関係している可能性があります。

また、今回の調査ではAI(人工知能)と幸福度の関係についても取り上げられています。日本ではAIを積極的に使う人は1割と少ないものの、その層の7割が「AIは幸せに良い影響を与える」と感じていることがわかりました。これからの時代、AIの活用が私たちの幸福度に影響を与える可能性があります。

では、日本の幸福度が低い背景にはどんな要因があるのか? そして、私たちはどのようにして「幸せを感じる力」を高めることができるのか? 調査結果をもとに、考えていきたいと思います。

なぜ日本人は「幸せ」を感じにくいのか?

「幸せ」と聞くと、多くの人が漠然と「なんとなく幸せ」または「なんとなく不幸せ」と感じるかもしれません。しかし、世界的に見たとき、日本人の幸福度は意外なほど低いのが現実です。博報堂100年生活者研究所の調査によると、日本は6か国の中で3年連続最下位という結果でした。この結果から、日本社会の特徴や価値観が影響している可能性が考えられます。
では、具体的にどのようなデータがあるのでしょうか?

日本人は「長生き=幸せ」と思わない?

日本は長寿国として知られていますが、「100歳まで生きたい」と思う人の割合は26.3%と、調査対象6か国の中で最も低い結果となりました。対照的に、中国では82.2%、アメリカやデンマークでも69%前後と、日本の2倍以上の人が長寿をポジティブに捉えています。

この差の背景には、日本特有の価値観や社会構造が関係している可能性があります。日本では高齢になることを「負担」と感じる傾向があり、経済的不安や社会とのつながりの希薄さが長寿へのネガティブな意識につながっている可能性があります。一方、長生きをポジティブに捉える国では、老後もアクティブに過ごせる環境や文化が整っている傾向があります。

「長生きしたいかどうか」は、その国の価値観や社会制度によって大きく異なります。そして、この意識の違いが、幸福度にも影響している可能性があります。次は、日本の「幸福度の低さ」に焦点を当てていきます。

日本人の幸福度は6か国中最下位

日本人は「幸福度が低い」とよく言われますが、今回の調査でもそれがデータとして裏付けられました。博報堂100年生活者研究所の調査によると、日本の幸福度(10点満点の自己評価)は5.9点で、6か国中最下位でした。

比較すると、中国は7.9点と最も高く、デンマーク(7.0点)、アメリカ(6.9点)と続いています。日本以外の国はすべて6.9点以上で、日本との差は大きいことが分かります。さらに、日本の幸福度は昨年の調査と同じ5.9点で、過去3年間ほぼ変化がありません。

この結果から、日本では「幸せを感じにくい」傾向が続いていることが分かります。その要因として、社会全体のストレスの多さや、幸福に対する価値観の違いが影響しているのかもしれません。次に、日本人の幸福度が低い理由として考えられる「幸せを意識する機会の少なさ」について見ていきます。

日本人は「幸せ」について考えない?

日本人の幸福度が低い理由のひとつとして、「幸せを意識する機会の少なさ」が挙げられます。今回の調査では、日本は「日々の生活の中で幸せを意識する」「幸せについて話す」割合が、他の国と比べて圧倒的に低いことが分かりました。

例えば、「日常の中で幸せを見つけようと意識している」と答えた人の割合は、日本では38.1%でしたが、他の国ではそれを大きく上回っています。また、「幸せについて普段から考える」人の割合は32.2%、「幸せについて人と話す機会がある」と答えた人は**20.7%**と、いずれも低い数値となりました。

これは、日本では「幸せ」について話すこと自体があまり一般的ではなく、むしろ「幸せは黙ってかみしめるもの」「わざわざ話すのは気恥ずかしい」といった価値観が根付いている可能性があります。しかし、調査結果からは「幸せを意識し、対話することが幸福度を高める」ことが示唆されています。では、具体的にどのような行動が幸福度の向上につながるのでしょうか? 次のデータを見ていきます。

「幸せを感じる力」が幸福度を左右する

日本人は「幸せを意識する機会が少ない」と言われますが、それが幸福度の低さに直結している可能性があります。今回の調査では、「日々の生活の中で幸せを意識する」「幸せについて話す」人ほど、幸福度が高いことが明らかになりました。

具体的には、日本全体の幸福度平均が5.9点だったのに対し、「幸せを普段から考える」と答えた人の平均は6.7点、「日常で幸せを見つけようと意識する」人は6.7点と、0.8ポイント以上高い結果に。また、「幸せについて対話する」人の幸福度は7.0点、「自分の幸せの形を周囲が理解している」と答えた人は7.2点と、さらに向上する傾向が見られました。

この結果から、「幸せを意識し、周囲と共有すること」が幸福度を高める鍵になることが分かります。小さな幸せに気づく習慣を持ち、積極的に対話することが、より良いライフスタイルにつながるのかもしれません。

【6か国対象 定点調査】概要
今回の調査は、「100年時代の生活と幸福度」をテーマに、博報堂100年生活者研究所が2025年2月に実施したものです。対象は日本全国の20〜80代の男女2800名と、アメリカ・中国・デンマーク・イギリス・オーストラリアの各600名ずつ、合計5800名。調査では、幸福度や長寿に対する意識、AI活用の影響などを比較し、日本人の幸福度の低さや、AIの活用が幸福感に与える影響など、興味深いデータが明らかになりました。

【調査概要】
国内調査:日本全国(20~80代の男女 2800名)
海外調査:アメリカ、中国、デンマーク、イギリス、オーストラリア(各国600名・20~70代)
調査時期:2025年2月
調査目的:100年生活の実態と幸福度の関係を分析

「幸せを感じる力」を高めるために

今回の調査から、日本人の幸福度が低い背景には「幸せを意識する機会の少なさ」や「長寿に対するネガティブな意識」が影響していることが分かりました。しかし、幸福度が高い人ほど、日常の小さな幸せを意識し、周囲と対話する傾向があることも明らかになっています。

また、AIを積極的に活用する人は幸福度が高いという結果もありました。AIの活用によって時間や労力が削減され、新たな学びや楽しみの機会が増えることが影響している可能性があります。今後、AIの活用が広がることで、日本人の幸福度にも変化が生まれる可能性があります。

幸せは、大きな出来事だけでなく、日常の中にあるもの。「幸せを意識する力」を高め、小さな喜びを大切にすることが、より豊かなライフスタイルにつながるのではないでしょうか。


博報堂100年生活者研究所について

博報堂100年生活者研究所は「長くなる人生を、前向きに生きていく人を増やす」、それにより「日本を、前向きな100年生活者の社会にする」ことを目指して、活動しています。
また、私たちは巣鴨に100年生活カフェ かたりばを運営しています。
お店に来られる多様な価値観のお客様との対話を通じて、より生活の現場に近い場所から、研究活動を進めています。

URL:https://hakuhodo-rdc.com/100years_lab/